

特定非営利活動法人おてらおやつクラブの紹介①(和合5月号)
2018.07.26
おてらおやつクラブ
おてらおやつクラブとは
「おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもをサポートする支援団体の協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動です。活動趣旨に賛同する全国のお寺と、子どもやひとり親家庭などを支援する各地域の団体をつなげ、お菓子や果物、食品や日用品をお届けしています。

代表紹介インタビュー

松島 靖朗(まつしま・せいろう)師 1975年生まれ。奈良教区安養寺住職。特定非営利活動法人おてらおやつクラブ代表理事。 早稲田大学商学部卒業後、株式会社NTT データにてインターネット事業、投資育成事業、株式会社アイスタイルにてべンチャー企業経営に従事。教師養成道場を経て2010年総本山知恩院伝宗伝戒道場満行。 総本山知恩院、大本山金戒光明寺、大本山増上寺布教師を拝命。 2016年、第8回浄土宗平和受賞 2017年、第8回奈良人権文化選奨受賞、第6回奈良日賞受賞。 2018年、中外日報社涙骨賞実践部門受賞。 |
まず、この活動を始められたきっかけを教えてください。
2013年5月、大阪で発生した母子餓死事件がきっかけです。世間では「一日一食の食事に困る子どもが増えている」ということを知り、衝撃を受けました。
その衝撃を、実際の行動に移していかれるわけですね。
事件をきっかけに全国でたくさんの支援団体が立ち上がりました。
そのひとつでもある大阪の支援団体さんへ、自坊から「おすそわけ」させていただくようになりました。
しかし現実は、少しの「おすそわけ」ではとても足りないほどに多くの方がお困りでした。
そこから、活動の必要性を感じられたわけですね。
まずは、教区内のお寺に「おすわけ」の協力をいただくようになりました。
また、HPを立ち上げて貧困問題が身近なものであることと、その問題に対してお寺ができることがあるということを発信していくことで、多くの賛同を得ることができました。
どうして活動がここまで広がっていったと思われますか。
お寺にはたくさんの「おそなえ」があり、食べきることができずに困っていた、というお話も少なからず耳にしました。そうしたお寺が抱える「共通の課題」と、国内の貧困に対して何かしたいという「共通の問題意識」をもったお寺が、僧俗一体となって力をあわせることで大きな力になりました。
お寺が大切に守ってきた信仰が今でも力強く全国各地に存在していることを感じます。
全国に届けられるおやつなどは、すべて「おそなえ」されたもの
お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげるおてらおやつクラブの発想を知ったときには、「これがあったか!」と驚かされました。
私自身、紆余曲折を経て、現在母の実家であるお寺の住職をしています。慌ただしい法務の日々を過ごすなかで「お寺を預かる」生活の有難さを知り、現在の活動につながりました。
「お寺を預かる」生活の有難さ、とはどのようなことでしょうか。
例えば、仏さまにお供えされる食べものです。幼いころは「お仏飯で育てられているんだから…」という押し付けが嫌でしたが、お檀家さんからの「よく帰ってきてくれた」という声のおかげで、ようやく自分はこの「おそなえ」に育てられてきたんだと気づくことができました。
先ほどの「紆余曲折を経て住職に」というお話ですが、住職になられるまでに何か葛藤があったのでしょうか。
幼少期は祖父の手伝いで「お坊さんの真似事」をするのが楽しかったのですが、成長するにつれ、よくわからずに読むお経を有難がれ、「御布施を頂く」ことに違和感を覚えるようになりました。
そして高校時代にはお坊さんにならない人生、普通の人生を歩みたいと思い、宗門の高校を退学し片道切符で上京、東京の大学に進学し、就職でも地元には帰りませんでした。
そこからどうしてお坊さんになろうと思われたんでしょうか。
通信会社に就職し、そこでインターネットという技術革新や出会った沢山の人とのご縁ですね。普通の大学に進学して一般企業へ就職し…、といった今まで自分が望んで歩んできた「普通」の人生ではなく、自分にしかできない「ユニーク」な人生を歩みたい、と自分の価値観を一変させるものでした。
やっと、33歳にしてお坊さんになる道こそが自分にとって一生をかけることのできる「ユニーク」な道だと感じ、受け入れることができました。
送るおやつ同封するお手紙にも心をこめて
そのような道のりを経たからこそ、この活動を思いつき、「よく帰ってきてくれた」と檀家さんに声をかけられたことが、継続の後ろ盾になっているのでは、と感じます。
おてらおやつクラブでは、「おそなえ」を扱っていることがとても大切です。というのも、人々の仏さまやご先祖様への思いが込められた「おそなえ」には様々な「お気持ち」が詰まっています。それらを「だれひとりもらすことなく救いとる」という仏さまからの「おさがり」として必要な方へ「おすそわけ」している、仏さまの宮仕えをさせていただいていると思って、日々活動に取り組めています。
今日まで活動を続けられてきたなかで、どのような壁がありましたか。
活動が広がるにつれ、全国のお寺と支援団体をつなげるための事務局業務が大変なボリュームになっていきました。もう限界かもしれないと思ったときに、地元で自身も母子家庭で育ったというお母さまと出会い、専任スタッフになっていただくことができました。
また活動主旨に賛同くださったIT 企業から特別にシステムを提供いただいたり、(公財)浄土宗ともいき財団から助成金をいただいたり、各地でお寺に「募金箱」を設置してお檀家さまへこの活動を広めてくださったり…と、多くの支えをいただき乗り越えることができました。
つづく
おてらおやつクラブHP https://otera-oyatsu.club/